具象の蕎麦・抽象の蕎麦 |
私の祖父が始めた、「日本そば大学」出身で現在そば打ち名人として
有名な高橋邦弘氏は「具象の蕎麦」だとその方は言います。
では抽象はというと、私は親交もある竹やぶの阿部孝雄氏の蕎麦が
「抽象の蕎麦」の代表格だと思います。
元々、祖父の弟子でもあった高橋邦弘氏はそれを受け継ぎ、ご自分の形を
確立しました。
阿部孝雄氏は老舗で修行後、一茶庵を含め、多くを研究され独自の
今の形を作り上げました。
どちらが良い、悪いと言うわけではありませんが、翻って今の私共一茶庵
特に私が手掛けている横浜の蕎麦や、教室で教えている蕎麦はどうなのか。
元を辿れば、祖父の蕎麦に行き着きます。
私に限って言えば、父片倉英晴の影響も大きいものがあります。
父は、身びいきなようですが「機械の様に精密な蕎麦」を打つ人でした。
祖父は蕎麦を単純な食事から「食文化」へと引上げた
功績があると業界では言われています。
その後の手打ちそばの進み方を見れば、それは明らかです。
片倉康雄-祖父と竹やぶ阿部氏に共通するのは、芸術特に
絵画や音楽にも造詣が深いということでしょう。
面白いのは両者とも、ピカソなどに興味を持っていたことでしょう。
ピカソはご存知のように青の時代、キュビズムなどを経て、
ゲルニカに至る変遷を辿っています。
言ってみれば、具象から、抽象への変遷です。
祖父はそうした知識や技術を持った上で、そぎ落として蕎麦に昇華させました。
私はまだまだ、途上ですがそろそろやはりそぎ落としに掛かり始める
時期かなと思っています。
父が示した技術の重要性は認めた上で更に、レベルを高めて
ゆきたいのは当然です。
従って、今の蕎麦がどうという結論は出ませんが、
確実にシンプルな物に行き着くと思います。
それが抽象か、具象かはまだ結論が出ません。
何かとりとめが無い事ですが、哲学者も蕎麦に興味を持つ方がいらっしゃいます。
それだけ、道筋はいくつもあるという事でしょう。
私も教室を運営していますので、教室の蕎麦は絵で言えば課題デッサンです。
常に、一人の人間としての蕎麦の方向性がどうあるべきかは私も勉強中です。