「ゆっくり、いそげ」「「腐る経済」 |
いずれも「そば」に関わる本ではありません。
前者は、東京の西国分寺にあるカフェを巡る話。
後者は岡山県(現在は鳥取県に移転しているようです)でのパン屋を運営する
方の話です。
2冊のテーマは違いますが、共通するのは、いわゆる個人のスモールビジネスから
新しい経済、そしてライフスタイルを築いている人たちの考え方や行動の道筋を
紹介したものです。
「ゆっくり、いそげ」は東京大学を卒業後、外資系コンサル会社を経て、
ベンチャーキャピタルの創業を手掛けた方が、ご実家のあった東京西国分寺で、
「クルミドコーヒー」というカフェを開き、今までにない形態で活動を続けてきて、
今や食べログカフェ部門でトップクラスに評価されるまでになる経過とともに、
その背景にある事業への考え方を紹介しています。
「腐る経済」は「タルマーリー」という店でパンという食べ物を作って売る、
という過程で発酵、原材料などを原点に立ち返り、本来のまっとうな手法で取り組む、
そしてその結果導き出される、経済活動のありかたなどを語っているものです。
両者に共通するのは、利潤追求、効率重視ではない事業を目指していることです。
より良い品質、かつ人間の人間らしい生き方を目ざす中での経済活動の
あり方は、ある種の示唆を与えてくれるように思います。
そば屋もそうですが個人で店を構える、そばを提供する、ということの目的は
事業として継続させることは重要ですが、その中に理想とする生き方や働き方
が包括されていないと、その意味が違ってくる、ということを常に考えたいということです。
忙しくしていると、何の為にこの仕事を始めたのか、というそもそもの命題を忘れて
しまう日もしばしばです。
しかし、当人が納得したものを提供し、それに見合う対価を貰って、生活の糧にする
という商売の原点を常に持ち続けることが原点です。
この本の中のカフェや、パン屋では決して安くないものが売られているのですが、きちんと
この価値が伝われば、事業として成り立つ、ということは目先の数字や売り上げだけを
見てしまうと、理解できないかもしれません。
どちらも、「時間」と「手間」を掛けたものをそれに見合う価値の「商品」として提供して
いることは、我々の商売にも共通することだと感じます。
幸いにそばの業界では原材料や、手間をかけることに価値を見出す方が増えている
傾向は嬉しいことだと思います。手前味噌ながら、巷間言われるいわゆる量販型の
外食産業にみられる材料、製法とは一線を画したものを我々は手掛けていると
思っていますが、その先にある「生き方」を再度見つめ直すには良いヒントが
示されている本だと思います。
2冊とも決して読んでストーリー性があったり、単純に面白い、とは言い難い本だと思います。
特に「ゆっくり、いそげ」は正直なところ、結構読みにくい(難しい)表現も多いのですが
気づきを与えてくれる内容だと思います。
また、これらと全く同じ形態や考え方で店や事業が運営できるか、というとそれも
無条件に肯定派できません。
但し、今一度なぜ商売を始めるのか、また取り組んでいる商売の原点は?
といったことを、立ち止まって考えるにはいずれも良い本だと感じました。
「田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」」(講談社)
「ゆっくり、いそげ」カフェからはじめる人を手段化しない経済(大和書房)
クルミドコーヒー参考ページ
タルマーリー参考ページ