「蕎麦の旅人」~なぜ、日本人は「そば」が好きなのか 福原耕 (文芸社) |
「ライフワーク」という言葉があります。
それは、自分が「天職」として生涯を共にする「職業」というケースもあれば
自分がワクワクして、その事に関わるだけで幸せを感じる、というテーマ、
という解釈もあります。
この本の著者である福原耕氏はお若い頃から、蕎麦への興味は持たれて
いたようですが、大手電機メーカーの役員を務められていたほどですから、
在職中はそばへの傾倒も限界はあったようです。
しかし退職後に本格的にそば打ちを含めて、蕎麦の歴史や文化等について、
深く堀りさげて研究を積み重ねて来られて来た方です。
勝手な言い方ですが「蕎麦がライフワーク」と言っても良いのでしょう。
その成果は、この本の出版以前から、下記のHP(著書と同名タイトル「蕎麦の旅人」)
で、地道にその研究や実際に蕎麦を巡る行脚の数々を綴って来られました。
今回、ハードカバーの立派な本を刊行されたということで、早速読ませて頂きました。
日本各地の郷土そばの解説や、食文化の中でのそばの位置づけ、植物としての
ソバの事典的な内容、世界でのソバを巡る食文化、そばの栄養学的な見解、
そして、そば打ちや蕎麦屋についての解説等々、盛りだくさんの内容です。
いわば「蕎麦の事典」とも言って良いほどの広い分野をカバーした
内容です。
加えて、日本の「そば文化」を支えてきた人々、の章では、
ソバ研究の大御所-氏原暉男氏、そばの文化史研究では、
やはり第1人者の新島繁氏、私の祖父で一茶庵創業者の片倉康雄などを
取り上げており、そばに関する「科学・文化・技術」における貢献者を称えて
います。
更に、早逝された漫画家・エッセイスト・江戸風俗研究家であり、そば好きでも
知られる杉浦日向子氏についても触れており、著者自身のそばへの愛情を
投影した文脈となっていることを感じました。
その他、著者自身のフィールドワーク的な宮崎・椎葉の焼畑によるソバのこと、
日本のソバにおける「原種」とも言われる対馬のソバについての著述も
興味深いものがあります。
前書きに記された「そば打ち・蕎麦屋巡り・そばの文化史を学ぶ」という著者の
そばを楽しむ三つの道、即ち「そばの三楽」を表現する集大成ともいえる
力作と言えるでしょう。
アマゾン参考ページ
蕎麦の旅人HP